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小学校3年生からの外国語活動が始まった2020年度の日本の英語教育。バトラー後藤裕子さんの著書『英語学習は早いほど良いのか』(2015年、岩波新書)を読み終えて、文部科学省や経済界が望む「グローバル人材」を育成できるのかを考えてみました。
新型コロナウイルスの報道からも政治と専門家の意見が常に一致することがないように、新しい英語教育も満場一致している状況ではありません。
本記事の内容
- 日本の学校英語教育を念頭に『英語学習は早いほど良いのか』の要約と感想
筆者プロフィール
肩書きだけでも良いなら僕もある意味「グローバル人材」に当てはまりはします。
前提
子供のうちから日本以外の異文化に触れる機会が増えるのは良いと思っていますが、言語習得という点で見たときに「英語学習は早ければ良いのか」について書いています。
本記事の要点
現在の学校英語教育だけで英会話もできちゃう「グローバル人材」を育成するのは非常に難しそう、という意見に僕も共感します。
『英語学習は早いほど良いのか』
要約の前にまず言いたいことは、この本は結構おすすめですよ!
言語習得に関する様々な検証を紹介しながら、タイトルにある『英語学習は早いほど良いのか』を検証結果から見つめつつ、筆者の見解はどうなのかという構成になっています。この本を読んでおけば巷に広がる英語教材でどれが良くてどれが胡散臭いかを嗅ぎ分けられるようになりますよ 笑
あと、基本的に書籍はご自身で読んでご自身がどう思うかを楽しむのが良いと思っているので、あくまでも、僕の要約であることをご了承ください。
要約
- 「英語学習は早いほど良いのか」を決定づけるには、これまでの様々な言語習得の検証結果だけでは不十分だろう
- 学習開始時期を早めるだけでなく十分なインプットの質と量を満たさないと期待するほどの成果は出にくいのでは?
- 学校教育以外の時間で英語に接することが子供の習得度に大きく左右するだろう、経済力の差が英語力の差を生むだろう
これが199ページの本書を読んだ僕の要約です。
途中途中で「そうそう」「確かに」と思わず納得する内容がいくつもあり全部ご紹介したいですが、要約に絞ると上記のようになります。
世間のイメージ
早いうちから子供に英語を学ばせようと思うのは、臨界期仮説や耳(リスニング)は早い年齢のうちに決まってしまうからという主張を聞いているからでしょうね。
臨界期仮説
言語獲得および第二言語習得における臨界期仮説(りんかいきかせつ、英: critical period hypotheses)とは、臨界期とよばれる年齢を過ぎると言語の習得が不可能になるという仮説である。母語の習得および外国語の習得の両方に対して使われる。第一言語と第二言語の両方の習得に関して年齢が重要な要素となっていることは定説となっているが、はたして臨界期なるものが本当に存在するのか、また存在するとしたらそれがいつなのかなどについては長い議論があり、仮説の域を出ていない。
参照:Wikipedia
聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。この仮説によって、12歳ぐらいになる前に外国語の勉強を始めた方がいいと思うわけです。しかし、この臨界期仮説は反論も多く絶対正しいとは言い切れないのが現状です。
英語知識の視点からも、早期学習が好まれることがあります。まず、英語知識は以下の3つに分解することができます。
- 発音
- 語彙
- 文法
これら3つの力をバランスよく育てるのが英語知識向上に重要ですが、その中でも、発音や音声といった耳の力を養うのは若い時期が重要だという臨界期仮説のような検証があります。
耳(リスニング)だけは手遅れになる前に1歳でも早く始めた方が良いはずだ、と思っている親御さんが多いのが現実でしょう。なので、世間的には早期学習開始に賛成という判断に至るのかと。
ちなみに、習開始年齢を小学校5年生や中学校1年生から小学校3年生に早めたからと言っても上記3種類の習得度が格段に高まるという検証はないようです。
言語習得の検証は様々
これまで世界中で言語習得に関する検証が実施されてきました。それら検証結果が、英語を普段から使う必要が特にない日本に住む子供にそのまま当てはめられるかどうかは言い切れないようです。いろんな前提や条件が一致しないと「英語学習は早いほど良いんだ!」という主張の証拠としては不十分なわけです。
本書では、イタリアからアメリカへ移住した人たちの年齢によって英語習得度に違いがあるのかといった検証も紹介されています(移住時の年齢が8歳〜、10歳〜、12歳〜のような分け方)。しかし、そこから得られた検証結果をそのまま環境が異なる日本の子供たちに当てはめちゃうのはねえ・・・、短絡的だよねえということです。
下記の比較をご覧ください。「英語を身に着けるぞ」と一口に言っても状況は様々です。
- 人:イタリア語が母語
- 場所:英語が使われるアメリカ
- 人:日本語が母語
- 場所:日本語が使われる日本
母語が英語と近い?遠い?
日常的に英語が使われる環境?使われない環境?
この超簡単な比較例だけを見ても前提や条件が異なりますよね。本書では、言語習得を下記のように使い分けています。
- 第一言語(母語)
- 第二言語(移住先の言語など)
- 外国語(日本で学ぶ英語など)
「第二言語(移住先の言語など)」の習得に関する検証結果を外国語(日本で学ぶ英語など)習得に当てはめられないよね、ということです。
経済格差と英語格差
本書の中でも述べられていますが、学校教育だけでは質的にも量的にもインプット不足になりやすく世間が憧れる英語ペラペラの「グローバル人材」を育成するのは難しいと思われます。
そりゃあ小学校3年生から英語に触れると言っても、週1や週2程度の頻度じゃあ少なすぎるでしょ。でも、学校の授業は英語以外にもたくさんあるからねえ。となると、経済的に裕福な家庭の親御さんはお子さんに学校以外でも英語を学ぶ環境作りにお金をかけようとします。
そうすれば、学校教育だけでは不足する質や量も補えるでしょうしお子さんが英語を使う機会も増やせるからです。実際に、このような英語教育過熱は他のアジア諸国でも起きたことです。
お子さんを持つママさん・パパさん、どう?
例えば、英会話教室に通わせてあげますか?月謝を1万円くらいと見積もって、年間12万円ほど。いけそうですか?なお、僕を含め典型的な日本人の英語力が伸びるきっかけは、語学留学のような英語環境で集中的に勉強する期間があった人たちが比較的多いと感じます。
「勉強」「勉強」と構えずに小学生の頃から異文化に触れる機会が増えるのは良いとは思いますけどね。
まとめ
英語教育に関しては、「子どもがしたいことをさせる」と言っていられないかもしれない状況が起きています。小学校3年生からの英語学習という学校教育だけで世間がイメージするグローバル人材が本当に育成できるのか?
- 「英語学習は早いほど良いのか」は意見や検証が様々
- 学校英語教育を早めても授業だけでは圧倒的に質や量が足りない
- 学校英語教育以外で英語環境を作れる経済格差が英語格差を作り出す
僕は、学校教育の中だけで「グローバル人材」と呼ばれるように子供たちを育てるのは非常に難しいと思っている派です。世間や経済界が期待するような成果が出るほど勉強(インプット・アウトプット)する時間が学校の中だけでは確保できないでしょうからね。
子育て中のみなさん、どう考えますか?
人材って
労働者精神バリバリやねw