RESIDENCE

映画『エゴイスト』の感想と日本のゲイ男性事情への提案

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この記事を読むのに必要な時間は約 14 分です。

 

大変でした。

 

映画館で見た『エゴイスト』には涙が止められなかったし、ブログ記事になんとか言葉でまとめようとしましたがなんだか作業がいつもよりも大変でした。しかし、2023年4月現在、国会でもネット上でも性による差別の議論がされているこのタイミングで『エゴイスト』を通した感想や提案は意義があると思い記事にします。

 

theatre Shinjuku egoist01
theatre Shinjuku egoist02

 

備考・注意

  • 作品中のセリフなど一部を引用しています。ネタバレにつながる可能性がありますのでご注意ください。
  • 本作品はR-15(15歳未満の方の入場・鑑賞が禁止)の映画です。このブログ記事もご自身の判断で読んでください。
  • 本作品は見る人によって感想や印象、解釈がかなり変わってくる映画です。このブログ記事も僕個人の解釈が前提です。

 

プロフィール

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僕の家庭は母子家庭で、登場人物の中村龍太(宮沢氷魚さんの役)に近い境遇なので感情が寄りやすかったです。

 

主な登場人物

  • 斉藤浩輔(鈴木亮平さん)
  • 中村龍太(宮沢氷魚さん)
  • 中村妙子(阿川佐和子さん)

参照:エゴイスト

 

「エゴ」の定義

③ 自分本位の考え方や態度。また、そういう考え方の人。エゴイストエゴイズム。「地域エゴ」 〔モダン用語辞典(1930)〕

参照:コトバンク

 

参考URL

 

主な登場人物の性

映画の感想の前に登場人物を「4つの性」で整理しておきます。原作本は考慮せず映画の内容での整理です、分かりやすさ重視の整理です。

 

斉藤浩輔(鈴木亮平さん)

4つの要素 性別
身体的性別 身体の性
性自認 心の性
性的指向 好きになる性
性的表現 表現する性

 

ゲイ男性同士での会話では「ホゲる」喋り方をしているので、「表現する性」は男と女を併記させてもらいました。

 

中村龍太(宮沢氷魚さん)

4つの要素 性別
身体的性別 身体の性
性自認 心の性
性的指向 好きになる性
性的表現 表現する性

 

中村妙子(阿川佐和子さん)

4つの要素 性別
身体的性別 身体の性
性自認 心の性
性的指向 好きになる性
性的表現 表現する性

 

全体的な印象

とにかくリアルにこだわっています。日本のゲイ男性のリアルをそのまま描写してくれています。下手なLGBTQ+の資料を見るよりもこの映画を5回、10回と見た方がよっぽど現実を知ることができます。

 

言葉で心情を言いすぎないところもこの映画では良かったと思います。仕草や服装で語らずとも気持ちの表現をしてくれてましたね。また、さまざまな対比が散りばめられていたと感じます。

 

  • 母親と父親
  • ノンケとゲイ
  • おしゃれ着と作業着
  • ビール腹と筋トレ
  • 貧乏と金持ち
  • 父子家庭と母子家庭
  • 外食と親の手料理
  • 中退と学歴
  • 本気のセックスとウリ専
  • 弱い体と丈夫な体
  • 枯れた花と咲いた花
  • 急死と看取り

 

この映画『エゴイスト』は、本当に一人一人違う感想を持つ映画だと思います。見る人によって、見るときによって、その都度、感想が変わってしまうくらい忙しい余韻に浸ります。以下は、僕がテアトル新宿で2回視聴してなんとか頑張って選んだ印象的なシーンTOP3です。

 

印象的なシーン

リアルな日本のゲイ事情

この『エゴイスト』は萌え〜とかキレイ売りなBL(ボーイズラブ)ではなく、日本のリアルなゲイ事情に基づいている映画です。男同士のセックスやホゲた喋り方、知能の低いストレート男性(豚1号)の心無いセリフなど。日本で暮らすゲイ男性が経験してきていることが映画でちゃんと描写されています。

 

  • 「服は鎧」
  • 「ゲイは結婚できない」
  • 「いい人いないのか?」
  • 「恋人だなんて言うわけないでしょ」

 

お芝居というよりも日本のゲイ男性の日常をそのまま見ているような非常にリアリティのある映画でした。映画全体を通しての印象と被りますが、リアルである、または、リアルに近い描写でした。

 

2023年4月現在、G7広島サミット前にLGBT法案とやらを議論しているように見せている現実味のない政治家のぐだぐだが続いている中で、濃厚でリアルなゲイ男性の映画を見るという現実世界の対比と上映タイミングも絶妙です。

 

愛とはエゴなのか?

『エゴイスト』という映画タイトルにもあるように、この映画が問いかけてくるのは「愛とはエゴなのか?」でした。少なくとも僕にはそう感じられました。僕が作中できっと答えだろうと思った言葉は、阿川佐和子さん演じる中村妙子が浩輔(鈴木亮平さん)に向けて言ったセリフです。浩輔が「僕は愛がなんなのかよくわかんないです」に対して言ったセリフが僕には一番柔らかく刺さりました。

 

Shohey
Shohey
答えは映画の中で探してくださいね

 

親にバレる自分の性

僕のこのブログ記事を読んでいるあなたに聞きたいことがあります。

 

あなたは人を好きになったことを親に謝ったことはありますか?

 

この質問は以下の3つの質問につながります。心の中で答えながら読み進めてください。

 

  1. あなたの性自認(自分の性別)は?
  2. あなたの性的指向(好きになる性)は?
  3. あなたの(1)性自認と(2)性的指向に関してご家族に謝ったことは?

 

作中で、斉藤浩輔(鈴木亮平さん)が中村龍太(宮沢氷魚さん)と中村妙子(阿川佐和子さん)の家から帰っていく場面のことです。映画の後半でわかりますが、手を振って浩輔を見送る息子の龍太に妙子は浩輔との関係性について尋ねているようです。その時に龍太は答えに詰まり、「ごめんなさい」と母親の妙子に謝っています。

 

なぜだかわかりますか?「4つの性」をもう一度。

 

中村龍太(宮沢氷魚さん)

4つの要素 性別
身体的性別 身体の性
性自認 心の性
性的指向 好きになる性
性的表現 表現する性

 

龍太(宮沢氷魚さん)はゲイ男性です。母親の妙子(阿川佐和子さん)は、息子の龍太は女性のことが好きなストレート男性(異性愛者)だと思っています。龍太にとって唯一の家族である母親にゲイであることをカミングアウトするのは「裏切り」となってしまいます。結婚ができなかったり子どもをもたないゲイ男性にとって親とのつながりは世間一般で思うよりも特別で強烈な場合が多いです。

 

龍太が母親の妙子に浩輔との関係性をはっきりと言うこともできずゲイであることが母親に知られてしまう恐怖や母親への裏切りの気持ちから来ていると思われる「ごめんなさい」という言葉。この言葉の背景にはとても繊細で脆くて純粋なゲイ男性の気持ちがあるんです。

 

こういった経験、あなたにはありますか?

 

YouTubeにアップされている鈴木亮平さんのインタビューも必見です。彼の言葉で語ったゲイ男性の苦悩で一番刺さると僕が思った箇所を引用しておきます。

 

何気なくお母さんから”彼女は?結婚しているの?”って聞かれて

恋人は目の前にいるんですけど”いやいないですね”って

自分がずっとこうやって演じて生きていかなきゃいけないのか

っていうことを初めて体感した時に

話に聞いていたよりはるかにつらいなこれはと思ったんですよ

とても大切に思う存在の方に常に嘘をつかなければならないという

この社会の状態というのは

自分が思っていたより

未熟なんじゃないかと率直に感じました

参照:【ゲイ役演じた鈴木亮平】今求められるのは「自分たちの社会を変えてみようという勇気」

 

https://youtu.be/7MDgvVgdSsY

 

作中では妙子は息子の龍太のことも浩輔のことも受け入れています。もちろん妙子の中にもきっと静かな葛藤はあったでしょう。家族を裏切らないために自分の性に関して嘘をつくしかなかった龍太や浩輔にとって、妙子は息子たちがゲイであることも知った上で受け入れてくれた唯一の生きている親です。きっと浩輔や龍太が物心ついたときから植え付けられたカミングアウトに対する恐怖感がようやく薄くなったんです。映画終盤で、妙子が浩輔のことを「自慢の息子です」と言うのも浩輔が救われる涙ボロボロな1シーンです。

 

この映画を通して感じる「美しさ」はおそらくこういった愛から来るものなのだと思います。

 

この『エゴイスト』を見たゲイ当事者たちが自分たちの実体験と重なり、かつ、強く共感し感動しているであろうシーンは、この一連の家族へのカミングアウトのところだったのではないでしょうか。僕はそう感じています。

 

映画作品から現実の日本へ

一つの作品として映画を楽しみたい方は、ご自身の感想を整理するのがいいと思います。僕のこのShohey Blogでは、映画作品から現実の日本で考えるべきこと・するべきアクションは何かを考えます。もし登場人物たちのような人たちが今の日本にいるなら何ができるのか。

 

僕が気になった経済面とメンタル面のことでなんとか3つにまとめていきます。

 

短期的なお金

1つ目は短期的なお金の支援です。妙子(阿川佐和子さん)と龍太(宮沢氷魚さん)は経済的にかなり苦しい家庭のようです。具体的な世帯年収や生活費などはわかりませんが、龍太が高校を中退して稼ぐ必要があると感じる世帯収入だったので厳しい生活だったと予想されます。

 

まずは短期的なお金のサポートを受けることが対策になるはずです。

 

作中では生活保護など公的な支援を利用していたのかまではわかりませんが、困ったときは公的な支援をまずは検討していきましょう。

 

映画の感想で賛否両論が出やすいのは、浩輔(鈴木亮平さん)が龍太(宮沢氷魚さん)と妙子(阿川佐和子さん)に現金を渡す場面でしょう。真心であっても現金を受け取るのはかなりの戸惑いやためらいがあるはずです。しかし、同性婚ができないゲイ男性が好きな人の生活を助けたるためにお金を渡す以外の現実的な方法は何があるのでしょうか。僕にはまだ思いつかないです。

 

長期的なお金

2つ目は労働以外の収入作りです、また、それに伴う教育や知識などです。龍太(宮沢氷魚さん)は高校を中退してからは働き詰めだったと思われます。もしかすると無理をこなそうとしてしまうかもしれませんが、長くは続きません。現在30代の僕がそう思います、切実に…。

 

労働による稼ぎだけではなく、少しずつでも資産収入を作るのが解決になるはずです。株式からもらう配当金が良い例です。

 

母親の妙子(阿川佐和子さん)は作中で「お寿司なんて久しぶり」と言っています。お寿司を買うお金がないという意味のはずです。貯金も少なかったかもしれません。なんとかどうにかして1週間や2週間もしくは1ヶ月に1回・1株ずつでも株式を買って配当金収入を得る仕組みを作ることができなかっただろうか…。そのうち配当金による1年間の収入が数千円、1万円となったら少しの気持ちの余裕が出たかもしれません。

 

たくさんの「タラレバ」を言うだけならできます。しかし現実的に考えたときに、妙子と龍太が自ら経済的にもう少し苦しくないレベルの生活にする方法はなんだったのでしょうか。今の僕には小さな投資(配当金狙いの株式投資)くらいしか思いつかないです。参考記事は貼っておきます。

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メンタル健全化に同性婚

3つ目は同性間でも結婚ができることをこの日本で早く実現させることです。既存の男女間の結婚または同等の制度を同性間の関係性にも早く適用させてほしいです。現行のパートナーシップ制度では不十分です。

 

同性婚(または同等の制度)によって変わることは、当事者のメンタルです。もっともっと健全なメンタルになるはずです。

 

婚約する選択肢がない人生を強制させる現状の日本は、今すでに生きている同性愛者のメンタルを潰し続けています。今すでに生きている人間に目をむけることさえできていない政治家が少子化対策や次世代の子どもたちのための法整備なんてできるわけがないでしょう。

 

現状、日本政府はLGBTQ+に対する国民の理解を高めるボトムアップを狙っているとされています。僕は理解を広めるよりも法的な制度を用意するほうが優先だと思っています。消費税やマイナンバーは国民に理解されてから導入されましたか?「国民の理解が必要」って対応したくないときに言い訳ではありませんか?

 

LGBT理解増進法とは

自民党性的指向・性自認に関する特命委員会が法制化を進めている法案で、正式名称は「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律」です。

差別禁止ありきではなく、あくまでもLGBTに関する基礎知識を全国津々浦々に広げることで国民全体の理解を促すボトムアップ型の法案です。

参照:一般社団法人 LGBT理解増進会

 

作中で浩輔(鈴木亮平さん)は妙子(阿川佐和子さん)が入院している病院へ行き、受付で「身の回りのお世話をしている者です」と名乗ります。「息子です」とは言えません。そんな病院で、後々、妙子は浩輔のことを「自慢の息子です」と言います。このシーンでは涙が止められなかったです…。ゲイ同士の気持ちだけでもなく親子間の気持ちだけでもなく法制度でも「家族」になれたら、他人からもっと壊されにくい関係性を作れるのではないでしょうか。

 

同性婚または同等の制度を早急に実現させたいです。

 

Shohey Blog lifestyle LGBTQ+

 

編集後記

映画の感想やレビューを発信する方は多くいらっしゃいます。映画を見終わった後の余韻に長く浸るのも『エゴイスト』の味わい方の一つだと思います。映画でグチャグチャになった感情を残したままテアトル新宿を出て現実の新宿を見たときに、僕にはさらなる虚しさのような感情が込み上げてきました。

 

  • 手を繋ぎ歩く学生カップル
  • 結婚指輪をした会社員男性
  • ベビーカーを押すママさん
  • 腕を組んで一緒に買い物をする中年夫婦

 

映画で「見せてもらった世界」と現実で「勝手に見えてくる世界」の溝に虚しさのようなものを感じましたね。新宿2丁目に近い場所で映画を見てもこの感覚ですよ。映画に出演している俳優さんたちにも結婚をしている方や子どもをもっている方がいます。映画の役では手に入れられないものを現実では手に入れている(羨ましさ)。でも同性愛者ではない彼らがこの映画を頑張って作ってくれたおかげで日本社会に同性愛がさらに認知されるようになった(感謝)。批判とかの気持ちは一切なく、すごい作品を見れて嬉しいです。ただ、日本社会という現実の世界に戻ると「あ〜映画楽しかった」だけでは終わらない気持ちが残りますね。

 

『エゴイスト』は映画の世界と現実の世界の差も交ぜて味わう映画なのでしょうね。

 

僕の感情意識はさておき、俳優さんたちの演技は本当に素晴らしかったです。特にゲイ男性を演じた鈴木亮平さんと宮沢氷魚さん、演技というよりも役そのものでした。ゲイ役が必ずゲイ当事者でなければならないというふうには僕は感じていないので、真面目で繊細な俳優さんたちが一生懸命演じてくれたのは嬉しいです。また母親役の阿川佐和子さんの演技は涙なしでは見ることができませんでした。弱っていく母親の姿ほど苦しいものはありません。

 

まとめ

映画『エゴイスト』を新宿テアトルで2回見てなんとかブログ記事にしました。ぐちゃぐちゃな自分の中の感情を他の人から理解してもらえるレベルに言語化するのはつらい作業でした。ただ同時に自分自身の整理整頓としても良い作業だったのかもしれません。

 

映画『エゴイスト』は永久に不滅の作品になってほしいです。

 

 

ABOUT ME
Shohey
外国語ばかり勉強してきた30代の東京人。日本を拠点に海外経験を増やす生活を発信します。

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